画面ではきれいなのに、貼り付けると崩れる

縦書きの小説や同人誌のPDFから文章をコピーして、メモ帳やWordに貼り付けてみたら、とても読めない状態になっていた。そんな経験はないでしょうか。よくあるのはこんな崩れ方です。

画面で読むぶんには何の問題もないので、PDFが壊れているのかと思いがちですが、そうではありません。PDFはもともと、文章を保存するためというより、紙面の見た目をそのまま再現するために作られた形式です。崩れる原因はそこにあります。

PDFが覚えているのは「順番」より「位置」

Wordやテキストファイルは、文章を頭から順番に持っています。「今日はいい天気です。」なら、「今」「日」「は」……と、読む順に文字が並んでいます。

PDFは事情が違います。印刷物の見た目を崩さないことが一番の目的なので、中身は「このページのこの位置に『今』を置く」「その下に『日』を置く」「少し左の列に次の文を置く」といった配置の指示が中心になっていることがあります。

人間は紙面を見れば読む順番が自然にわかりますが、コンピューターにとっては、位置の決まった文字がたくさん並んでいるだけ。どの文字が先でどれが後か、はっきりした手がかりがない場合があるわけです。

縦書きはとくに苦手

日本語の縦書きは、上から下へ読んで、行は右から左へ進みます。一方でコンピューターの文字処理は、横書き、つまり「左から右、上から下」を前提に作られているものがほとんどです。

縦書きPDFをコピーするとき、ソフトは「上から下まで読んだら、ひとつ左の列へ移る」という順番を自分で推測しなければなりません。この推測が外れると、隣の行が途中に紛れ込んだり、行の順番が逆になったりします。

ルビが入るとさらにややこしい

小説や同人誌では、漢字にルビを振ることがよくあります。たとえば「東京」に「とうきょう」とルビが振ってあれば、人間はひと目で読み方だとわかります。

ところがPDFの中では、本文の「東」「京」と、小さな「と」「う」「き」「ょ」「う」が、それぞれ別の場所に置かれた文字として記録されているだけ、ということがあります。その結果、コピーすると「東とう京きょう」のようにルビが本文に混ざったり、本文のあとにルビだけがまとめて出てきたりします。

ページ番号や柱も本文と区別されない

本のページには、本文のほかにもページ番号、章タイトル、本のタイトルや著者名が入った柱、注釈などが印刷されています。人間なら見た目で「ここは本文じゃない」とわかりますが、コピーするソフトから見れば、どれも同じページ上の文字です。本文の途中にページ番号が入り込むのはこのためです。

開くソフトによってもコピー結果が変わる

少しややこしいのですが、同じPDFでも、Adobe Acrobatでコピーした場合と、ChromeやSafariなどのブラウザで開いてコピーした場合とで、結果が違うことがあります。

それぞれのソフトが、PDFの中の文字情報を解析して「この文字の次はたぶんこれ」と判断しているからです。PDFの中に完成した文章が入っていて、それをそのまま取り出している、というわけではないんですね。

スキャンしたPDFには、そもそも文字が入っていない

紙の本をスキャンして作ったPDFの場合、ページの中身はただの画像です。画像に「こんにちは」と写っていても、コンピューターにとっては写真と同じなので、文字としてはコピーできません。

こういうPDFから文章を取り出すには、OCR(光学文字認識)を使います。画像を解析して「この形は『あ』だろう」と推測し、文字に変換する技術です。ただしOCRも読み間違えます。縦書き、小さい文字、ルビ、旧字体、凝ったフォントなどは、とくに誤認識が起きやすいところです。

「読める」と「取り出せる」は別の話

ここまでをまとめると、PDFは「画面できれいに読める」ことと「正しい順番でコピーできる」ことが、必ずしも一致しない形式だということになります。

PDFの本来の役目は、パソコンや環境が変わっても同じ見た目を再現することです。印刷用のデータとしてはとても便利ですが、中の文章を再利用する用途には向かないこともあります。「電子的な紙」と考えるとイメージしやすいかもしれません。

文章を使い回すなら、元データから

自分で作ったPDFなら、PDFからコピーするより、Word、InDesign、Pages、Googleドキュメント、テキストファイルなど、PDFにする前の元データを使うのが確実です。

PDFしか残っていない場合は、テキストを抽出したあとに改行や順番をチェックする必要があります。縦書き小説ならなおさら、コピーした文章をそのまま信用せず、元の紙面と見比べておくと安心です。

縦書きPDF → 横書きテキスト変換ツールのこと

ササドコロでは、縦書きPDFから文字を読み取り、横書きの読み順に並べ替えてテキストとして取り出す無料ツールを公開しています。コピーしたら順番がめちゃくちゃになった、小説や同人誌のPDFから一部だけ文章を抜き出したい、というときに使えます。

PDFをブラウザで読み込んで、変換したいページを指定するだけなので、ソフトのインストールは要りません。処理はブラウザの中で完結し、PDFを外部のサーバーに送ることもありません。

ただ、画像として保存されたスキャンPDFには対応していません。レイアウトが複雑なものや、ルビの置き方によっては、うまく並ばないこともあります。一から打ち直す前に、まずは一度試してみてください。ツールを作った経緯は「縦書きPDFからテキストを取り出す話」に書いています。